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相続・遺言コラム

遺言制度の見直し―民法(相続関係)改正の行方―

公益社団法人 生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会(JAIFA)東京協会発行の季刊誌「るあTOKYO」2017秋号(No.145)に、私、竹内裕詞が執筆した「遺言制度の見直し―民法(相続関係)改正の行方―」と題した記事が掲載されました。

これは私の所属する日本相続学会が連載している円満&円滑な相続のための知識&知恵シリーズの第8回となるもので、法制審議会で発表された中間試案を紹介し、現在検討されている相続法の改正の方向性をいち早く報告したものです。

今回は、その内容を簡単にご紹介いたします。

自筆証書遺言の方式緩和

自筆証書遺言は全文を自筆で記載しなければなりませんが、かなりの労力を要するため自筆証書遺言作成の障害になっています。
中間試案では、不動産の地番や面積、預貯金の口座番号など、財産を特定する記載については自筆を要しないことにしてはどうかと提案しています。
また、自筆証書遺言に加除訂正をする場合には、遺言者が変更した場所を指示し、変更した旨を付記して署名して、変更した場所に捺印しなければなりませんが、中間試案では署名があれば捺印は要しないことにしてはどうかと提案しています。

遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し

現在、裁判例では、遺言で遺贈をした場合は登記など対抗要件を備えなければ第三者に対抗できませんが、相続分の指定をした場合は対抗要件を備えなくても第三者に対抗できるものとされています。
中間試案では、取引の安全を確保するために、相続分の指定の場合も対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとすることを提案しています。
また、現在の裁判例では、債務などの義務の承継については遺言で法定相続分と異なる承継を指示しても債権者に対抗できず、債権者が承諾したときだけ遺言のとおり承継されるとされていますが、中間試案では、裁判例の考え方を法文上も明記しようと提案しています。

自筆証書遺言の保管制度の創設

公正証書遺言の原本は公証役場で厳重に保管されるのに対して、自筆証書遺言を保管する制度はなく、紛失や隠匿、変造されるトラブルが多く起こっていました。
そこで、中間試案では、自筆証書遺言を保管する機関の創設を提案しています。
自筆証書遺言が保管された場合、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で行う検認の手続を不要にすることも法制審議会で検討されています。

今後のゆくえ

中間試案は昨年6月に発表され、パブリックコメントが集められました。
現在は、パブリックコメントと昨年12月の最高裁判所の預貯金を遺産分割の対象とする新判断が示された大法廷判決を踏まえて、追加試案が発表されています。
まだ相続法改正の審議は続きますが、徐々に改正相続法が姿を現しつつあります。
新たな制度の創設や、大きなルールの変更も含まれていますので、注意深く見守っていきたいです。

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