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確定拠出年金コラム

相談事例会社員の夫が交通事故で障害認定1級を受けました。障害年金はいくらくらいもらえるんですか?

ご相談者
お名前夫:章さま(当事者)妻:明子さま
年齢夫:35歳妻:33歳
職業夫:パソコン会社勤務妻:専業主婦
家族構成夫、妻、子ども3歳
事例の分類個人型確定拠出年金(iDeCo)

相談のきっかけ

昨年買い物に行く途中に車同士の交通事故に遭い、さくら総合法律事務所で裁判手続きをしています。交通事故の後遺症で、「働けなくなるかもしれない」という不安があります。そんな時に、弁護士さんから、「障害年金がもらえるかもしれない」と聞きました。詳細についてはさくら総合法律事務所のFPの竹内美土璃さんが担当と伺いましたので、相談の申し込みをしました。障害年金のことについて教えてください。

ご相談内容

私(ご主人)がプライベートの買い物の帰りに交通事故に遭い、現在、損害賠償金の請求手続きをしています。残念ながら一生車いすが手放せなくなりました。このまま会社を続けられるかわかりません。もし、今の会社を辞めなくてはいけなくなった場合、裁判でもらう賠償金だけでは妻と子どもをかかえて食べていけるかわかりません。そんな時に、弁護士さんから、障害年金のことについて聞きましたが、どういった場合にどれだけもらえるのかも見当もつきません。またいくらになるかわかりませんが、今後解決金として受け取る損害賠償金についても、働けなくなるリスクを考えるときちんと将来の生活費として運用した方がいいと思っています。こちらについてもおいおい検討していかないといけませんので、よろしくお願いします。

ご相談でお話しした内容

章さん、ご相談ありがとうございます。事故は大変でしたね。怪我のことも心配ですが、将来のこともさぞご心配でしょう。章さんが少しでも前を向いて歩いていけるよう、ご提案をさせていただきますね。

では、まず、障害者となってしまわれた方が受け取ることができる「障害年金」について見ていきましょう。

障害者となった場合、章さんがおっしゃった通り、障害年金や障害手当金を受け取ることができます。さらにいうと、障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。ただ、これを受給できるには、一定の要件が必要です。その一定の要件のことを受給要件といいまして、その受給要件を満たしていた場合のみ、障害年金等を受け取ることができます。この、受給要件・保険料納付要件がすごく大事なので、こちらを見ていきましょう。

受給要件・保険料納付要件とは?

受給要件

まず、第一関門として、下記の2つの項目を満たした場合であることが必要です。

  • 初診日に国民年金(障害基礎年金が受け取れる)または厚生年金(障害厚生年金と障害基礎年金が受け取れる)の被保険者であること。
  • 障害認定日(初診日から1年6ヶ月以内で傷病が治った日)に障害等級1級、2級、3級(障害厚生年金のみ)に該当すること。

では、さっそく章さんの場合を見ていきましょう。

章さんは、まだ会社員でいらっしゃるので、上の図の(1)に該当します。そうしますと事故の初診日が会社員の期間ということになるので、障害基礎年金と障害厚生年金を受け取ることが可能です。

まだ、これだけでは要件が足りません。今度は第二関門である、保険料納付要件を見ていきましょう。

保険料納付要件

こちらは、まずは原則を見て、それでもクリアできていない場合、救済措置として、特例を見ていきます。

  • 【原則】保険料納付済期間+保険料免除期間が全被保険者期間の2/3以上
  • 【特例】原則の要件を満たさない人は、直近1年間に保険料の滞納がないこと。初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
出典:日本年金機構(中に書かれている数字は筆者が説明のために書いたもの)

では、章さんの場合はどうでしょうか?これは、ねんきん定期便で確認するとよくわかります。ねんきん定期便の「1. これまでの年金加入期間」を見てください。そこを拝見すると、章さんの年齢である35歳で180ヶ月の納付をされています。章さんは、20歳から年金を支払われているので、原則の要件が満たされていることがわかります。

以上1と2から、章さんは受給要件を満たしていることがわかり、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受給することが可能ということがわかりました。

「章さんはきちんと義務を果たされて納付されていたことが、ねんきん定期便でわかりました。章さん、素晴らしいです。義務を果たしてはじめて権利を主張できます。安心してくださいね。」とお伝えしたところ、今まで緊張していた章さんは、少しほっとされたのか顔がほぐれ笑顔になり、落ち着きを取り戻されたのがわかりました。

障害年金はいくらもらえるの?

では、実際、章さんはいくらもらえるのか見ていきましょう。

まずは、年金を基礎年金と厚生年金に分けてみていく必要があります。

障害基礎年金

最初に障害基礎年金について見ていきます。ここでも、障害基礎年金は、お子さんが18歳までで金額が変わってくるので分けてみていきます。

障害基礎年金子の年齢18歳まで779,300円×1.25+224,300円=1,198,425円
50歳以降779,300円×1.25=974,125円

このように、お子さんの年齢によって、若干金額が変わってきます。

障害厚生年金

次は、障害厚生年金についてです。障害厚生年金は、お子さんの年齢に関係なく受け取ることができます。また、章さんは、まだ若く、厚生年金に156ヶ月しか入っていません。そういった場合、厚生年金の被保険者の期間が300ヶ月以内ですと、厚生年金の金額も少額になるため、特別に300ヶ月としみなして計算されます。障害厚生年金1級であれば、報酬比例に1.25倍します。

障害厚生年金270,000円×1.25×300ヶ月÷156ヶ月=649,038円

障害厚生年金649,038円を一生涯受け取ることができます。

併給調整の影響は?

ただし、今度は65歳になった時、ご自身の老齢厚生年金や老齢基礎年金を受給できる権利が生まれてきます。日本の法律では、障害年金と老齢年金の両方を受給することはできません。その時には、併給調整といって、この二つの年金を比較して、多い方の金額の年金を受給することができます。

章さんの場合を見ると、下表のようになります。

子の年齢18歳まで
障害基礎年金1,198,425円
障害厚生年金649,038円
合計1,847,463円
50歳以降
障害基礎年金974,125円
障害厚生年金649,038円
合計1,623,163円
65歳以降
障害基礎年金と老齢基礎年金のうち多い方974,125円以上
障害厚生年金と老齢厚生年金のうち多い方649,038円以上
合計1,623,163円以上

ただし、このお話は、働けなくなることが前提です。
もし、このまま継続して働くことができ、お給料がもらえた場合でも、障害年金は支給されます。今の生活も安定する上、老齢年金も増えて、障害年金よりもたくさんもらえる可能性があるわけですから、「今後働き続けることはプラスである」とお考えください。

  • 金額はすべて平成30年度で掲載しています。経済事情等により変動します。

損害賠償金をもらった時

章さんの場合もそうですが、交通事故などの被害者となった場合、加害者の相手から損害賠償金を受け取ることができます。その時は、賠償金と年金をダブルでもらえないということが起きてきます。よって章さんは、交通事故で障害年金を受給する場合、加害者側から損害賠償金をもらったら、障害年金が最大で2年間支給停止されます。

また、現在の生活費については、損害賠償金額の決定はまだなので当面の生活費として賠償金の仮払いをしてもらえるとのこと。賠償金額が決定されたら、この仮払金を差し引いて受け取ることができます。

ここら辺のことも、少し頭に入れておきましょうね。

解決のポイント

章さんの場合は、下記のような権利をお持ちになっています。

  • 金額は不明だが、損害賠償金をもらえる
  • 最大2年間の支給停止があるが、障害年金ももらえる

ただ、章さんは会社員でお給料をもらっていますよね。もし可能であれば、今後どのような働き方をしていけるか、会社と相談ましょう。
基本的にはこのまま働けるだけ働いた方がお金の面ではいいですね。
また、働いていても障害年金なども受給できます。会社の条件なども考え、年金受給の手続きもしていきましょう。
もし、働けないのであれば、この障害年金の金額では生活が大変だとは思うので、奥様が働きに出るなりしましょうね。
相談しながら今後のことを決めていきましょう!

次回の打合せでは、今後の方針を決めていくこと、そして裁判が終了し、実際に賠償金額が決定したら、賠償金の運用も同時にしていき、もしもの場合に備えていくことになり、相談を終えました。

実際の事例を題材としておりますが、個人情報保護の観点から変更を加えている場合があります。

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